irAEの適切な対処法臨床からの実例 (論文サマリー)

Case Reportのご紹介

オプジーボ、ヤーボイ投与による大腸炎や下痢に関する症例の集積が進み、その治療経過は、一般的な大腸炎や下痢に類似するものやこれまで経験したことのない特殊なものがあり、中には重篤なケースに発展する場合があることも報告されています。一方で、早期発見と適切な対処により管理が可能となることもわかってきました。
「臨床からの実例」では、早期診断、適切な治療介入の参考にしていただけるよう、国内市販後に報告された症例の一部をCase Reportとしてまとめました。また、過去10年間に報告されたCase Reportをまとめたレビューも紹介いたします。これらの知見を日常診療の場でご活用いただけましたら幸いです。
なお、大腸炎、下痢の発現頻度や程度については「発現状況」を、対処法に関するアルゴリズムについては「治療」をご参照ください。

Case Report の見かた

  • 「Point !」では、オプジーボ、ヤーボイ投与により発現した大腸炎・下痢の特徴を示すとともに、対処法のポイントをまとめました。
  • 「治療経過」では、発現した副作用の特徴や特筆すべき治療を水色でハイライトし、治療経過をわかりやすくまとめました。
  • 「画像所見」については、担当医師よりできるだけ詳しく画像所見を聞き取り、解説を加えました。
  • 「専門医からのコメント」では、治療経過や画像所見から読み取った症例の解説や対処法について、監修者よりコメントをいただきました。

ここで紹介する症例は、今まで報告された症例の中から抜粋した症例でありますが、検査や治療については個々の症例で異なりますので、患者状態を考慮し、症例ごとでご判断ください。

論文サマリー

チェックポイント阻害薬によるirAE大腸炎に対するマネジメントの課題(レビュー)

Hamamoto y, et al. Future Oncol. 2018; 14(30): 3187-3198

免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連消化管有害事象の課題とその管理を評価するため、ニボルマブおよびイピリムマブ投与で発症した大腸炎、腸炎、下痢に関連するワード*1を用いてPubMed検索を実施した[調査日:2017年11月21-23日]。過去10年間の報告をもとに、検索ワード*1に合致した41件(82例:海外データ[79例]、日本人データ[3例])の論文についてレビューを行った。
対象とした82例で処方されたチェックポイント阻害薬の内訳は、ニボルマブ10例、イピリムマブ67例、ニボルマブ+イピリムマブ併用5例であり、患者背景は表1のとおりであった。
本レビューでは、全82例をステロイド不応例、再発例、遷延性の下痢の3群に分類し、各群の定義、大腸炎・下痢の管理方法およびアウトカムについてまとめた(表2-表4)。症例の多くが3群のカテゴリーで重複していた。また、全82例のうち下痢のGradeが確認できたのは42例であり、その中でGrade 3以上を21例*2が占めていた。症例報告として論文に掲載される症例は重症例が多いことから、本レビューでは重症例が多い点に注意が必要である。最後に、今回検討した論文よりirAE大腸炎に対する画像診断の現状を報告する。

表1 患者背景
性別
男性:49例、女性:31例、記入なし:2例
年齢
中央値:47歳、範囲:22~93歳
悪性黒色腫
70例
肺癌
9例
悪性リンパ腫
2例
尿路上皮癌
1例
表2 ステロイド不応例
定義
「ステロイド不応」または「部分的不応」、ステロイドの漸減が困難な場合を「依存症例」と定義した。
患者の内訳
(全82例)
全Gradeの下痢においてステロイド不応、部分的不応、依存症例と考えられた症例(32例)
ステロイド不応32例のうち大腸炎と診断、または内視鏡検査で潰瘍形成が確認できた症例(19例)
管理方法
ステロイド不応32例の対処方法は、ほとんどがガイドラインに従いインフリキシマブまたはその他の免疫抑制剤の投与であった。そのうち75 %(24/32例)では1~2回の免疫抑制剤で症状は消失し、迅速な反応が得られた。
ステロイド不応32例のアウトカム
・ステロイド静注にて回復(1例)
・インフリキシマブ投与にて症状消失(16例)
・インフリキシマブ4回投与後、遅延性にCMV感染症を発症(1例)
・インフリキシマブ2回投与後も反応なし、結腸切除術後に死亡(1例)
・インフリキシマブ投与による副作用発現後、アダリムマブ+メトトレキサートに切り替え、副作用は消失(1例)
・二次治療または後治療としてベドリズマブ投与にて回復(7例)
・結腸切除術などの外科的治療(5例)
表3 再発例
定義
初回ステロイド治療(経口または静脈内投与)で改善が認められてから3日以上経過後に再発した場合を「再発例」
とし、退院後に再入院、またはステロイド漸減中に悪化した場合は数ヵ月から数年経過していても「再発例」とした。
患者の内訳
(全82例)
再発例(25例)[再発(13例:いずれもステロイド不応例)または再発と考えられた症例(12例)]
管理方法
今回検討した全82例のうち結腸切除術などの外科治療を施行したのは15例であり、そのうち9例(60 %)は再発例であった。再発とステロイド不応が併存することで治療が複雑化し、手術に至る場合があることを裏付ける結果であった。
再発25例のアウトカム
・インフリキシマブ投与にて症状消失(10例)
・結腸切除術などの外科的治療*3 15例)
表4 遷延性の下痢
定義
下痢が1ヵ月以上続いた症例とした。
患者の内訳
(全82例)
遷延性の下痢(7例)
管理方法
ステロイドのみで治療(6例)
遷延性の下痢7例のアウトカム
・irAE大腸炎の改善がみられず悪性黒色腫にて死亡(1例)
・1回改善後に死亡(3例)
・ステロイド治療のみで回復(2例)
・経口ステロイド無効後にインフリキシマブを投与し、irAE大腸炎は迅速に消失(1例)

画像診断

結腸壁および小腸壁の肥厚または潰瘍形成を確認するためには生検を伴うCT/消化管内視鏡検査の施行が複数の論文で推奨されている1,2)
ASCOのガイドラインではGrade 2以上の症例に対して、上部内視鏡検査または大腸内視鏡検査を施行してインフリキシマブの早期投与が必要な患者を見極め、検査結果をもとにインフリキシマブの用量と投与期間を決定し、寛解を目指すことを提案している3)。Geukesらの報告によると、内視鏡検査を施行したir AE大腸炎92例の検討では、内視鏡検査結果と下痢の重症度との相関は認められなかった。一方で、内視鏡検査で高Gradeと診断された症例では低Gradeの症例に比べてインフリキシマブ投与が必要になった頻度が高かったことから、内視鏡検査はirAE大腸炎の重症度評価に有益であることが示され、我々もこの結果を支持する4)
また、同ガイドラインでは、ステロイド不応例ではインフリキシマブによる早期治療が必要としている。しかも、結腸に潰瘍が認められる場合はステロイド不応となる傾向がある3)。これらの報告は、CTまたは大腸内視鏡検査の早期実施が治療方針を決定する上でも重要なツールとなることを裏付けている。

まとめ

  • irAE大腸炎のほとんどは管理ガイドラインに基づく治療によって症状は消失した。
  • 高用量ステロイドの全身投与は高Gradeの下痢に対して有効であり、インフリキシマブなどの免疫抑制剤は重症化した症例で有効性が示された。
  • 下痢発現時のGradeにかかわらず、再発例では慎重な治療が必要となる。
  • ステロイド漸減中に再発、または増悪した依存症例では早期に消化器専門医を受診しCT/内視鏡検査による診断が必要となる。特に再発例に対しては、早期に免疫抑制剤の追加投与を推奨する。
  • Grade 2未満の下痢であってもステロイド不応や再発の経過をたどる可能性があるため、注意深く観察することが重要となる。
  • 今後、様々な併用療法に適応が拡大することが予想され、治療効果を最大限に享受するためにはirAEの管理が重要となる。
  • 患者に対しても新たに報告されたirAE、特に注意が必要となるirAE、潜在的な副作用などの安全性について適切な説明を行い、irAEが発現した場合には、できるだけ早く報告することの重要性を教育することが求められる。

*1:①ニボルマブ、大腸炎、②ニボルマブ、下痢、③ニボルマブ、腸炎、④イピリムマブ、大腸炎、⑤イピリムマブ、下痢、⑥イピリムマブ、腸炎、⑦ニボルマブ+イピリムマブ、大腸炎、⑧ニボルマブ+イピリムマブ、下痢、⑨ニボルマブ+イピリムマブ、腸炎。

*2:Grade 3以上の下痢と判断された21例のうち3例はステロイド静脈内投与(2例はメチルプレドニゾロン投与量不明、1例はメチルプレドニゾロン60 mg/日×4日間投与)を行い、残り18例はステロイド不応例、部分不応例、またはステロイド以外の治療が必要となった再発例であった。

*3:外科治療施行例のうち7例で外科的治療前に免疫抑制剤の投与歴なし、2例でインフリキシマブ投与後に再発、4例がGrade 2以下であった。

臨床からの実例 (症例①~③)